僕は本が好きだ。世の中には本が好きな人もいればあるいは好きでない人もいるだろう。ただ僕が好きな側の人間だったっていうだけの話で、別に君が好きでなくたって何も問題はない。ロマネ・コンティにゴルゴンゾーラを添えるのか、ミモレットを添えるのか、その程度の違いにしか過ぎない。些細な違いだ。ともかく、僕は本が好きだ。
「それで君は村上春樹が好きな人…つまりはハルキストなのかい?」と君は言った。
「いいや、全く。それどころかこれっぽっちも読んだことがない」と僕は言った。
「それじゃあどうして、村上春樹の文体模写を?」
「さあね。これはただの気まぐれかもしれないしあるいは必然的なことなのかもしれない」
君は不思議そうに首を傾けた。しかし、僕の胸の中はロミオがジュリエットの後を追うように、ジュリエットがロミオの後を追うように、決意で満ちるようだった。とても広く、とても深く。
やれやれ、どうしたものかと僕は思った。なにせ村上春樹の文体模写を練習するとは言ったが、そもそも村上春樹の本を読んだことがないのだ。しかしどことなく直感で理解していた。あるいは理解したと思っただけかもしれない。いずれにせよ、太陽が東から昇るのと同じくらい当たり前に、そういうものなんだと思った。やるべきことは分かった。
「ところで君はこれからどうするつもりだい?」君は心配するような目で言った。「まぁ私には関係ないことかもしれないけれど、一応、ね」
「村上春樹の本を読んでみようと思う。丁度、明日から読もうと思っているんだ。ノルウェイの森」
「ノルウェイの森」
僕は小さく頷くと、ロマネ・コンティを一口煽った。そしてミモレットを口の中へ放り込んだ。